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21世紀へのオノ・ヨーコの帰還(9) イサム・ノグチの場合

イサム・ノグチの伝記は、ドウス昌代「イサム・ノグチ」(講談社)に
詳細に描かれているし、ネットで検索すればいいことなので、
ここではとりあえず、
彼が詩人・野口米次郎を父に、米国人女性を母に1904年に米国で生まれ、
2歳で父を追って母とともに来日、13歳で単身渡米、
まあ、その後も波乱万丈の人生を生きて、
偉大な彫刻家になったということにしておこう。
(脱線するが、ドウス昌代のこの本は、すばらしい。
ノグチに関心のある人は、もちろん、父と子・母と子の関係について、
20世紀の歴史と文化について、異文化との出会いについて、
その他多くのことが学べる。)

ノグチは生涯にわたって驚くほど多数の彫刻作品を制作したが、
それに劣らぬほどの多数の女性との遍歴も重ねたらしい。
その女性有名人の「リスト」(!)のなかには、あのフリーダ・カーロの
名前さえ入っているのだ。ノグチは、夫ディエゴ・リベラに現場を押さえられ、
銃をもって追いかけまわされたが、
かろうじて逃げ延びた、という有名な伝説付き。
その遍歴のなかで結婚したのは、ただ一度、相手は、
あの伝説の女優・李香蘭(今では、劇団四季のミュージカルで
その名を知っているという人が多いのではないだろうか)。

いくらでも名前をあげられるが、きりがないのでやめておくが、
つまり、男性にとって浮気・不倫などは「芸の肥やし」、「男の勲章」
でありこそすれ、こういったスキャンダルが、ノグチをさらに有名に
することはあっても、彼の芸術的評価にはマイナスに働くことは
なかった、ということだ。

大地に屹立する彫刻が男根の象徴機能をはたすかどうかは別にしても
野外に展示される彫刻は、当然公共空間をしめることになるから
権力・権威との親和性を持ちやすい。ノグチは数々のスキャンダルにも
係わらず、いやむしろその故に、権力・権威にもよく受け入れられていること
を次の事実が示していないか。ノグチの作品は、国内に多数あるけれど
東京にも現存しているものが5つある。民間にある2つと国立近代美術館の門、
(これらはだれでも見れる)、都庁内(見学には予約が必要)、さらには、
最高裁判所内(これは見学さえ不可)。権威がませばますほど
秘蔵するという典型だが、その示すところはノグチが
国家公認の芸術家ということだろう。

民間にある一つは、草月会館内にあるが、これは、もう彫刻どころでなくて
ちょっとした丘がビルの吹き抜けの中に作られていて、僕はかってに
現代の富士塚と呼んでいる。富士塚と同じく、「登山」できるし、
作品名も「天国」、なんかご利益のありそうな、たいそうな作品だ。
草月会館は青山通りに面して、赤坂見附と青山一丁目の中間あたり、
「とらや」とカナダ大使館の中間、交通至便なところだから、
前を通ったらぜひ寄ってみられるといい。入るのは無料です。
茶道、華道などという伝統芸能が、いったい誰のサイフをあてにして
その権威をましてきたかと考えれば、ノグチという人物の作品がまことに
納まりよくこの権威と見事な調和をはたしていることがわかるだろう。

(この項続く)
by espritlibre | 2004-06-26 15:11 | 美術
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