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一葉日記のおもしろさ(2)

ところで、一葉さんの日記は、どんな形で出版されているかを付け加えておきたい。

①『樋口一葉全集 第3巻(上)(下)』(筑摩書房 1976年・1978年刊)
②『全集 樋口一葉 第3巻 日記編』(小学館 1979年刊 1996年再刊)

①は一葉さんの日記の原本にあたって忠実な翻刻をめざした基本文献だ。その使命のためには当然のこととはいえ、文中の適当な切れ目を示す読点や会話文を示す括弧もないし、かな遣いも濁点がない文字について一々注記するなど、とうてい読みやすいとはいえない。
②は①を原文を変えずに読みやすく編集している。ただ、一葉さんが日記にあとで書き込んだ随筆調の文章を収めていないのが残念だ。これにおもしろいものが多いのだ。だから、やっぱり①の特に下巻に収められた「補遺」編を参照する必要があるということになる。①も②もどちらも注がついている。①にはさらに詳細をきわめた索引がついていて、パソコンもない時代に、こういう仕事をされた人がいるのかと頭の下がる出来具合だ。

僕は、①を図書館で借りて、がんばって読み通したが、文意のわからない所が多く、そもそも文章として判読できない箇所さえ多数ある。ところが、これを読み通した(といえるかどうか大いに疑問だが、まあ最後のページまで繰った)あとになんと現代語訳が出版されていることに気づいた。

③『完全現代語訳 樋口一葉日記』(高橋和彦訳 アドレエー 1993年刊)
なんとまあ親切な本があるものだ。①にはあるが②が収めていない文章も収めて訳してある。僕はこれを通読してようやく全文の意味が理解できた。ただ、原文の味わいは、原文でなければ伝わらないということは、すべての翻訳にとっての宿命であって、この本の欠点だというのは酷というものだ、僕は、よくぞ訳してくださった、と感謝したい。

④『樋口一葉日記(上)(下)』(岩波書店 2002年刊)
これは原本を忠実に再現した複製本。値段も1冊63、000円という豪華大型本。翻刻本でさえ読むのに苦労しているのだから、とうてい読めるわけもないが、どんなものか見てはみてみなければと思っている。

これ以外にも、角川文庫で『一葉青春日記』『一葉恋愛日記』という題名で2冊に分けて出ていたことがある。余談だが、新宿・紀伊国屋が文庫の古本を置くようになって、しばらく前にその棚を覗いたら、その1冊が出ていたが、今までついぞ2冊揃っているのを見かけたことがない。そもそも、③こそ今でも購入できるが、上にあげた①も②も品切れ状態が長く続いていて、図書館で借りるか、古本屋で見つけるしかないのだから、一葉さんの「ブーム」というのがいったい何を指してそういうのか覚束ない気もする。
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